さっちゃんはカイロプラクターだ。
自宅などを訪問してカイロプラクティスの施術を行う。
気持ちよくするマッサージとは違うし、整体師とも違う。
主にからだの部位を調整することにより、ゆがみを矯正し、痛みの軽減、機能改善、からだの自然治癒力を高めることを目的とするのだそうである。
少し前から月に二度ほど来ていただいている。
最初は慢性的な腰痛を何とかしたいと思ったから。
痛くてどうしようもないというほどではないが、常に右側にしびれのような違和感があった。
靴の踵の左の外側が、右に比べて著しく減りが速いので、何かその辺りに原因があるんじゃなかろうかとは思っていた。
それからO脚。
ある時、自分の写っている写真を見て、ぎょっとした。
どうでもいいにも程があると思った。
肩こりや片頭痛も度々起こる。
そんな自分のからだの不調を洗いざらいさらけ出した。
さっちゃんは私を、施術用の折り畳み式マットの上に寝かせ、からだの曲がり具合や足の長さの違いなどを手際よく調べてから、自身の手指や肘などを使って「ここ痛いですね」などと言いながら私のからだのコリと痛みを片っ端から消していった。
見事である。
それから毎日できるストレッチの方法を指導してくれたり、自分のからだへの向き合い方といったものを伝授してもくれた。
おかげで私も妻も健康だし、これから先も健康なからだを維持できるかなと思えるようになった。
今はこんなご時世だからだいぶ減ってしまったけれど、さっちゃんは地域のお年寄りなどを対象にした「健康体操教室」などにも講師として出かけている。
うちのスタッフと利用者さん向けにもできませんかね、と相談したら、「できますよー」と応じてくれた。
からだを矯正することで精神の病の多くは改善するのだそうだ。
うつ病などで下ばかり向いているような人には、肩甲骨をゆるめ、胸を張り背筋を伸ばして、血液とリンパ液の流れを良くするだけでも相当な効果があることは実証されているとのこと。
考えてみれば当たり前だが、心とからだはつながっているのだ。
そしてさっちゃんのすばらしいのは知識と技能もさることながら、そのホスピタリティの高さである。
一人でも多くの人に健康な人生を送ってもらうことを自身のミッションとしている彼女からは、毎回励まされるようなやさしい言葉をもらい、心まで癒されるようだ。
私たちの障害福祉サービスもコミュニケーションビジネスと呼ばれるが、大いに見習いたいものである。
際立つのが、聞く力だ。
リアクションがすばらしい。
ちゃんと聞いてるよ、とすぐさま動作や表情で応えてくれる。
簡単なようだが意外と難しいものだ。
リアクションが的確だと、それにさらに応えようとこちらも努力するものだ。
だから周りを変えたいと思うならまず自分を変えるというのは当たっているだろう。
自分がリアクションを変えれば相手も変わらざるを得なくなるというものだ。
リアクションが的確というのは、聞かれたことにちゃんと答えるということ。
これも簡単なようだが案外難しい。
人は自分の聞きたいことだけ聞いて、言いたいことだけ言おうとするものだ。
さっちゃんはその辺りが程よいのである。
自分のことを全く喋らないわけではないが、喋りすぎないし、時折脱線する妻のお喋りにもちゃんと笑顔で付き合ってくれる。
こういう術をどこで身に付けたのか、子育てがひと段落してから学び始めたというカイロプラクティスだが、まさに天職といった感じだ。
自身も毎日スポーツジムに通ってからだを鍛えているそうだが、歳は私よりも上でもとても若々しいしチャーミングだ。
我が家に来るときには、パンやピザを焼いて持ってきてくれる。
いったいこの人はのんびりとテレビなど見て過ごすことなどあるのだろうか、と思う。
ご主人を若くして突然の心臓の病で亡くされてから、健康へのこだわりが強くなったのだろうか。
スポーツジム通いの自分を「病気だね」と笑う。
人生には何が起こるか分からない。
だから今を精一杯楽しむ。
楽しめない人の分までも。
白いフォルクスワーゲン「ビートル」に施術用のマットを積み込み、次のお客様のところへ颯爽と移動するさっちゃんは、何ともかっこいいのである。